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2023年新春特大号【タイ工業省 工場局長インタビュー】

クロスロード・キャピタル㈱は2022年10月にタイ工業省 工場局長に新しく就任したジュラポン・タウィーシー氏にインタビューをする機会を頂戴しました。
2022年9月に行われた経済産業省との政策対話に引き続き、スマート保安に関する協力の意見交換の内容や現在のタイの産業政策の状況などについて、率直なご意見を伺うことができました。
2022年12月13日 都内にてタイ工業省工場局長インタビュー
2022年12月13日 都内にてタイ工業省工場局長インタビュー

以下ジュラポン・タウィーシー工場局長のご発言:

【タイの産業の状況と日本との協力】

♢覚書を締結した背景
タイはThailand 4.0という経済成長の目標を掲げています。タイの産業は海外との競争力が20年前にくらべて落ちてきているため、製造業は現在のものからもっと発展し、効率化する必要があります。
タイは現在、中所得層の罠に直面しており、従来の製造業の緩やかな発展に満足しているだけでは、利益を計上できなくなってきています。これについて10年以上問題視されています。そのため、産業の効率化を図り世界市場の需要に応えていけるように発展していく必要があります。
経済産業省との話し合いの中では、競争力強化、生産性の向上や、産業のイノベーションについての議題が挙がりました。ASEAN地域は産業の面において競争力が高くタイを抜いている地域が沢山あります。
今回の話し合いのテーマであるスマート保安とは具体的に生産工程における安全を保っていくために、AIを導入して生産性の向上を図るというもので、タイが焦点をおいているSカーブ・New Sカーブに分類される産業に適用できる技術も含まれています。これらはタイに多くの収益をもたらすと考えられています。保安や環境問題を解決するための技術発展という面で、今後日タイで協力していけるでしょう。
Thailand 4.0の主要な目的はイノベーション、生産性の向上ですが、地球環境問題にも取り組む必要があります。今のタイの製品は安価であるというだけのものではありません。これからは、環境に優しくそして国民の健康を守るものでなければなりません。再生可能エネルギーの利用は地球温暖化の課題に取り組むために重要な項目で、これらの基準を順守することは、ヨーロッパやアメリカの市場にも受け入れてもらうために必須となっています。
日本政府からのタイへの技術協力はかれこれ30年前から始まり、その後も良好な関係が続き、現在に至っています。ASEANの中でも、タイの生産技術が向上し製造拠点となり得たのは、日本政府からの技術支援がとても大きいと言えるでしょう。
ですので、日本企業が多く投資しているタイの製造業がここからまたさらに一歩レベルアップすることがとても重要だと日本政府も認識していると思いますし、タイの産業を持続的に発展させていくため、タイの外国投資の中で最も多くを占めている日本との協力が必要不可欠だと考えられます。
♢覚書におけるタイの役割
日本政府は、この件に関して、専門家の派遣や人材育成を通して技術協力し、実際にタイでの運用ができるような環境づくりをしていくことを目的としています。
これは、官民一体となって取り組んでいかなければならない事案です。
工業省は、規制や制度の見直しを行い、企業が安全で安定的な生産ができるような技術を取り入れていけるよう支援を行っていきます。
世界共通の課題である環境問題において、日本とタイで起こっている問題点は実際には異なるかもしれませんが、重要なのは「技術」であり、それを日本の技術協力という方法でタイの産業の状況に合った形を模索し、導入していかなければなりません。
日本という一番の外国投資国からの協力は双方にとって利点があると思います。ただ、一点申し上げたいのは、技術や知識を提供してもらうということではなく、タイは日本を産業発展のパートナーと位置付けています。
2022年12月13日 都内にてタイ工業省工場局長インタビュー

【タイの産業政策】

♢BCG政策について
BCGはタイの産業の状況を打開するために政府が立ち上げた国家政策の一つですが、実際にはタイだけではなく世界全体が直面している産業への使命でもあります。
  • バイオ産業

    タイは比較的に、バイオ産業に適した資源に恵まれている国で、気候的にもバイオプロダクトに生かせる植物資源が沢山あります。これらの資源を活用してタイの産業を発展させていける可能性があるというのが、この政策を立ち上げた理由でもあります。
  • グリーン産業

    国が発展していくと同時に、天然資源は消費されていってしまいますし、その天然資源の枯渇はタイでも起こっていることを自覚せざるを得ません。
    ご存じのことと思いますが、タイのGDPの1/3は工業が占めていて、1/3は観光産業が占めています。そのため、観光産業の成長を支えるためにはタイの美しい自然を今後も守っていかなければなりません。
    現在、タイの自然環境はあまり良いとは言えません。空気汚染など深刻な問題になっています。タイはプラスチックごみの海洋への流出量が世界で五本の指に入っていて、この深刻な海洋プラスチックの問題を解決しなければ、タイの観光産業が発展することは難しいです。身体の健康に影響のあるマイクロプラスチックの浮いた海や河川、プラスチックごみだらけの観光地に行きたいという観光客はいないでしょう。プラスチックごみと河川や海へ流れるマイクロプラスチックの問題は現在タイにとって国家的議題となっています。
  • 循環型産業

    循環エコノミ―について、4、50年前はタイは天然資源に恵まれていて、またその資源の価格も大変安価なものでした。国の発展のために沢山利用してきましたが、現在は状況が異なります。これからは、より多くの循環資源を利用して、国内需要と輸出需要両方に対応可能な循環型消費の方法を取り入れていかなければなりません。
上記に述べた3つの環境問題への取り組みが国家的なBCG政策として今後20年を見据えた産業計画に反映されています。BCG政策の中で工業に関することで言えば、対象産業は10+2あり、既存の5産業と新しく転換していく必要がある5産業、あとの2つは産業分野というよりか、人材育成と国防という項目になります。
タイは軍が利用している武器を海外から輸入していますが、これからは自国生産をするという案も出ています。
BCGに対する具体的な政府の支援策
BOI以外の支援策について、今まで、政府はR&D を支援する予算が少なかったのですが、現在の政府が立ち上がって8年目になり、新しいイノベーション技術がなければ、タイは他国との競争に勝つことはできず、R&Dは産業発展のために大変重要なものであると位置づけられました。そのため、予算をR&Dへの補助金に多く当てています。
これらの管轄は高等教育科学イノベーション省になり、同省は研究開発に対してこれまでに最高の予算を獲得しました。
BOIは税制優遇措置などの面で進展させる役割がありますので、工業省やほかの省は研究費において個別に企業への支援を行っていきます。
また同時に、政府の役割として規制や法案の整備や許認可手続きといった面を改定し、10+2の産業への投資の簡易化を行い、よりビジネスが前進できるための環境つくりに励んでいきます。
具体的な例として、特区を設けた制度条例の一つ「sandbox」法というものが作られました。企業が新しい製品の開発・製造を行う際に、様々な規制により運営がスムーズにいかないという問題が起こるケースがあります。この「sandbox」で定められた特区に投資している企業の場合、試作品として商品を輸入し、法規制などをいったん除外して、これらの商品がタイにとって優位性があるか、競争力のあるものか優先的に審査されます。これは現政権下でできた画期的な取り組みで、投資促進・産業発展を大きく支援するきっかけになると思います。
♢EVについて
ベトナムのEVメーカー、ビンファーストがアメリカや他国で工場を設立し、自国メーカーの進出という点でタイより早く海外へ進出しました。
私の意見ですが、タイのEV産業に関していえば、政府が掲げたEV政策はベトナムに劣っているとは感じていません。おそらく数年の内にタイのEV産業はベトナムを上回るものになると信じています。事実少し遅れをとっていますが、それはタイの政策の進め方として、まず広く大衆の意見を聞くということから始まるので、そのようにタイとベトナムでは政治体制が異なることが要因の一つと考えられます。
タイのEV製造と国内の普及について
タイは自動車の普及率がかなり高く、自家用乗用車もトラックなどの商用車もどちらもかなりの量が販売されています。そのほとんどがエンジンを必要とする自動車で、それらは環境問題に多く影響していると言えます。
前述の通り、タイの大気汚染の問題は深刻で世界の3本の指に入る大気汚染レベルと言われています。タイのGDPの1/3は観光産業が占めているため、この問題の解決なしには観光業の発展は期待できないでしょう。
さらに大気汚染の問題は、国内では健康被害の問題となる一方で、経済にも影響を及ぼすと理解しています。
タイには内燃機関自動車関連の製造工場はすでに多く存在しています。この優位性において、国内のEV転換への啓蒙と次世代自動車関連の企業を誘致という、需要と供給の双方で市場を構築していかなければなりません。
世界の自動車産業はすべて、既にEVへの事業転換もしくは追加事業を行っています。
工場局は企業の事業内容を把握する立場でもありますから、日本だけでなくヨーロッパなど全ての自動車メーカーがすでにEV産業へ進んでいることがわかります。
タイ独自ブランドについて
タイでバッテリー製造の工場を立ち上げた100%タイ出資の世界的な企業energy absoluteについてご存じでしょうか。この企業の事業の進め方は韓国が新規事業を開始する時のスタイルとよく似ています。企業自体は技術を持っていないので、他社の技術を買ってバッテリーの製造を行っているのです。
自動車製造とバッテリー製造の大きな違いとして、自動車メーカーはブランド力というものが重要で、市場において信頼できるブランドかどうかというのが流通の大きな要因になります。
自家用車については、トヨタや三菱ホンダなど有名なブランドの車はすでにタイで流通していますが、タイのメーカーに関していえば、基準やその知名度が外国のブランドに比べて劣っているというのが現状です。これから企業がやるべきことは、バッテリーの生産開発とそれを搭載した車の開発です。タイにはまだ独自の自家用車ブランドがありませんが、バス・船・電車・トラックについてはタイ独自のブランドがあります。
タイは、ビンファーストのような事業展開ではなく、バスや船、トラックなど海外企業がまだ参入していないエリアへの展開を目指しています。そして持続可能なバッテリー製造を自国で行えるようにしていきます。そうすることにより、今後OEMで日本や外国メーカーのためにバッテリー製造を行ったりすることが出来ると考えています。
ベトナムに比べると、タイは自国のブランドの開発に遅れているという印象を受けるかもしれませんが、これらの強固な基盤が今後の事業の成長に発展していくと期待しています。
充電ステーションなどインフラについて
中国やgrate wall motor テスラ―など外国企業の参入が多く見られ、テスラ―は製造工場はありませんが、タイに販売拠点を持っています。
EVの関連企業は、充電ステーションの充実なしには事業の成功はないと考えていますし、タイの石油関連事業も充電ステーションの開発を推進することで、電気自動車の販売機会を増やそうとしています。
♢グリーンインダストリ―について
工業省が管轄している政策の一環で、工場局はタイ全土の76都県に地方事務所があるので、企業がグリーンインダストリ―(以下GI)認証取得を行えるようにするため支援するのに適した組織です。この認証は各企業の自発的な取り組みによるものであって、政府によって義務づけられているものではありません。あくまで政策の一環です。ですから政府としては、この政策を浸透させるために認証を取得することによって事業継続性や信頼度が高まると企業に推奨しています。
GIとして認証されるためには、企業が自発的に取り組まなければいけないもの多いので、取得した場合どのようなインセンティブが与えられるかといった企業を促すための工夫を検討しています。例えば、一定のレベルを取得した場合、税制を何年間免除するといったインセンティブなどです。
過去に、自然災害や洪水に見舞われた工場にこのような措置を講じたことがありますが、これは一種の救済措置で、税制や手数料の免除は予算の減少につながるため、GIのインセンティブに適切かどうか精査される必要があります。
また、取得したレベルにより工業省職員による定期的な工場監査の緩和などといった案も検討されています。例えばレベル3以上取得していれば毎年の監査が3年毎になるといったものです。これは企業側も工業省側も負担が軽減されるのでとてもいいと思います。
工場以外の認証について
工場以外の施設にGIのような認証制度を適用する予定があるかどうかということですが、商業施設などの認証を行うのは他省の管轄になります。
例えば観光に関連する「グリーンホテル」「グリーンショップ」「グリーンホームステイ」といった観光スポーツ省、省エネの建物は電気公社などがあり、環境への配慮や効率的なエネルギーの使用、適切な廃棄物管理、排水など様々なルールがあります。販売店であれば、その製品が環境を破壊するプロセスによって生産されていないかどうか注意を払うといった労働環境や環境に優しい取り組みをしているかどうかという物差しの一つになるでしょう。それぞれの施設や企業が環境保全に取り組んでいるかどうか、公的に知ってもらえますし、知名度や信頼度の向上につながる良い機会にもなると思います。
工業省の政策として、2025年までにすべての工場がGIの認証取得を目指していますが、取得できなかった場合は企業の責任ではなく、政府の指導責任になります。レベル1や2の取得はそんなに難しくはありません。企業は継続して取り組んでいかなければ認証レベルの降格もあります。我々は企業のGI取得・継続支援のために何でも取り組んでいくつもりです。
インタビュアー:
クロスロード・キャピタル㈱ 鈴木倫子
NGOで日本語教師としてのボランティアでタイカンチャナブリに2年滞在
帰国後、在京タイ王国大使館に7年半勤め、現在はクロスロード・キャピタルでタイ産業関連の情報提供などを行っている
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