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メルマガ第28号 【2023年首相指名選 タイエネルギー事情】

下院総選挙以降、首相の選出が難航しており、現在も新政府設立が実現していないタイでは、進行中の経済政策が「新政権の決済待ち」といった案件もあり、経済の停滞が懸念されています。一日も早い首相選出と新政権の発足が望まれている状況です。
【首相指名選】
2023年7月13日に行われた上院・下院による第1回首相指名選で、先日の総選挙で第一党となったピター氏が連立政権からの指名を受けて唯一の首相候補となったが、投票結果が過半数に届かなかったため、7月19日に投票のやり直しとなった。
ところが、第2回指名選投票当日、かねてより選挙管理委員会に挙げられていたピター氏の“メディア株の所有”という事実が選挙法違反の規定に該当するという判決により、ピター氏は議員資格停止処分となり、自ら前進党の党首を辞任、そして議員辞職を申し出るという事態になった。
タイ国内では、“国民の投票により一番人気で当選したピター氏が首相に選出されないことは国民の意思を尊重していない”などを訴えるデモが起きている。前進党は、政策の中に含まれている憲法112条の改正については「国民との約束」であり、重要事項と位置付けており、取り下げなどについては考えていない。今後連立を組んでいる野党は、ピター氏がいなくなった後、上院・下院の過半数以上の賛同を得るために、今一度連立の見直しや候補者の選出について検討する必要があると考えている。
第3回指名選の議会は7月27日に開かれる予定。
【各政党の経済に関する公約】
先行き不透明な新政権の設立は、外国投資家の信頼を揺るがすタイ経済にとって大きな損失になると考えている人も少なくないが、タイの政治の習慣やルールについて理解し、政権の安定を温かい目で見守らなければならないのも海外投資の困難な点の一つです。
しかし、多くの政党が、タイ経済の発展のために経済支援策、投資政策の改革に重点を置いており、国際的な経済の課題の解決に何が必要なのかを公約に掲げています。
政権によってどのような違いがあるか、今回は特に外国企業にとっても関わりのある経済、特にエネルギーに関して主な党の公約をまとめました。

国民開発党
エネルギーに関して最も現実問題解決のためのはっきりとしたビジョンを持つ。
石油・ガス・電気全てのエネルギー事業に関してもっと民間企業が関わることにより、効率的かつ公正で透明な競争力を高めることにより、適正な価格で供給するシステムを構築することが出来ると考えている。送電線や発電の確保がEGATでのみ管理されている状況を見直し、現在タイ発電の多くを占めている天然ガス発電から再生可能エネルギーが占める割合を増やすといった改革が必要。
タイ建国党
現在の発電供給(約53,000Kw/h)は、国民の電力使用量(35,000Kw/h)を上回っており、我々は実際よりも高価な電気料金を支払っていると指摘。結果国民の電気料金を3.5バーツ/Kwhまで引き下げられると確信していると述べている。
タイ誇り党
全ての家庭に無料ソーラーセルを給付することにより、家庭で使用する電気代を450バーツ値引きすることが実現できる。政府は、電力公社のシステムを通じて余剰電力を買い取ることにより国民の支出を削減できる。
6,000バーツの電気バイクを月々100バーツのローン払いで購入できるプロジェクト。上記の太陽光パネル無料設置と併せれば、国民が安価で電気バイクを購入することができ、電気代の問題も解決される。
国民の力党
エネルギーに関して、短期的な政策と長期的な政策二つをもつ。短期的な政策は電気・ガス・石油価格の値下げ。人々の生活費を削減するための適正な価格を再検討するというもの。
長期的な政策については、屋根上ソーラー設置に関する補助金制度を設けること、また政党主導のバイオマス発電所を建設するプロジェクトを立ち上げること。建設地域では燃料となる作物の栽培を行う農家は発電所の株式を所有することにより収入を得ることができ、さらに自分達で消費した分の余剰電力を電力公社が買電するといったシステムを構築することができる。
前進党
タイ湾の天然ガスは、安価で国全体の発電に十分な量を採掘することができるが、EGATは外国から輸入したLNGガスを使用して発電しているため、そのコストが余分にかかっている。財務省参加のPTTは、タイ湾から採掘した天然ガスを分離プラントに運び、まず高商品価値のあるプラスチック樹脂生産のための原料を抽出し、その残りのガスの一部を燃料として産業プラントに販売する権利を持っている。その残りのガスがEGATに販売されるため、発電に試用するガスの量も不足し、さらにコストがかかるために最終的な電気料金の価格に影響してしまう問題がある。このことを踏まえ、政府が、EGATが天然ガスを最初に発電するための燃料を使用する権利を与えることにより、発電量の増量とコスト削減が見込まれ、電気料金が削減されると考えられる。
加えて、各家庭に太陽光を設置する。これにより、自家発電・自家消費により電力コスト削減に役立つ。また、市内のバスの電気化を推進する
【タイのエネルギー政策と現状】
タイの国家エネルギー政策では、石油価格の上昇、エネルギーの枯渇、環境汚染といった世界で課題となっている問題に対して、革新的なエネルギー技術をタイに導入し、クリーンで高品質な技術を持つタイの産業発展を目指した社会への枠組みが組まれている。
政策と目標
2023年に更新したPDP2023(国家エネルギー)では2050年までに国内の発電の50%を再生可能エネルギーで賄うという目標を立てている。
主に4つの側面からタイエネルギー政策の実現に向けて関係機関が方針を発表している。

  1. 低炭素社会を築く

    • 2050年までにカーボンニュートラルを実現する
    • 国内初のグリッド近代化投資計画:スマートグリッドシステムと電力インフラストラクチャ(2023-2027)の投資と開発5カ年計画
    • クリーンエネルギーの取引を促進するための法律や規則の改正
    • EVおよび充電ステーションの発展
  2. 経済を強固にするエネルギー

    • スポットLNGの輸入の費用を抑えるために低コストで国内及び近隣国から天然ガスを調達する
    • 太陽光、廃棄物、フローティング太陽光などの発電を促進する
    • 建物の省エネ設計基準を義務化
    • 公共の電力効率を高める為に民間の電力会社の利用促進
  3. エネルギーの公平性と人々の暮らしの品質向上

    • 島や過疎地域の送電インフラの発展
    • LPGガスの価格を固定する
    • 低所得者および生活保護を受けている国民に対するLPGガス購入補助金
    • PTTは屋台などを運営する低所得層に対しLPGガスの購入補助を行っている
  4. エネルギーサービスを提供するための組織開発

    • 国民がより円滑にアクセスできるエネルギー情報の公表
    • デジタル面での効率化
    • エネルギー省傘下にNational Energy Information centerを設立
    • エネルギー事業への参入許可申請の改定
FiTの背景
2022年10月、タイ政府は、再生可能エネルギーの技術向上・クリーンエネルギー普及を促進するために、FIT(固定価格買い取り制度)導入を決め、民間企業に参加を募った。
これらは、当初掲げられたタイ国家電力開発計画2018には含まれていなかったが、地球温暖化や石油不足の問題を軽減するために、太陽光・水力発電・バイオマスそして水力など自家発電業者からPEA(地方電力公社)のグリッドに接続し販売するシステムを構築した。
現在のFiT買取価格は、太陽光発電は2.1679バーツ/Kwh、太陽光+蓄電の場合は2.8331バーツ/Kwhとなっている。
制度が始まってから申し込み案件が多数あり、現在は予算の関係で募集を締め切っている。また現実として、電力供給過多の傾向もあり、通常の電気料金は4.7バーツ/Kwhのため、あまり利益の見込みがなく、屋上ソーラーなどを備え付ける家庭や商業施設では、自家発電自家消費が多くみられる。
また、工場規模でも同様に、発電施設として事業を行うというより、工場内で発電設備を設けて、工場内で消費する傾向にある。
現在の発電システム担当 分類 発電量の割合
過去にはタイ電力公社(EGAT)がタイの発電を担っていたが、政府は1994年より民間の発電事業への参入を許可し国内の発電容量増加や技術の向上を図っている。
発電事業者の中には、大規模発電IPPと小規模発電SPP、極小規模発電VSPPの三種類が設けられ、その発電方法などは火力・自然エネルギー以外にも自然エネルギーや代替エネルギー発電などその方法も多岐にわたっている。特にVSPPに分類される事業者は再生可能エネルギーを利用した発電方法に特化している企業が多い。
2023年5月の発電容量
総発電量49,468.80MWのうち EGAT16,920.32MW(34.2%)IPP17,023.50MW(34.4%)SPP9,290.08MW(18.78%)輸入6,234.90MW(12.62%)となっている。EGATの発電量のうち、再生可能エネルギーは3,116.92MWで全体の18.42%にとどまっている。多くは全国のダム水力発電で太陽光、風力の発電量は少ない。
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